ホームレス女子(2)
われわれには幸いなことに暖かい塒(ねぐら)がある。食事も三度三度きちんと食べられている。嗚呼(ああ)、わたしはホームレスでなくて本当によかった、というのですか。
それはないでしょう。自分さえよければ、それでいいのですか。自分の家族さえよければいいのですか。まさか、この女性の窮状(きゅうじょう)を無視するのですか。
さような姿勢であるならば獣(けもの)と選ぶところはないのではありますまいか。獣でも自分たちの群れを大切にします。われわれは魂を持った人間です。
われわれに何かできることはないか、と考えないとすれば獣よりも劣る、と言われても仕方がないのではありますまいか。
何よりも人として優しさに欠けますし、この時代に生まれて来た甲斐がないのではありますまいか。あなたが軽蔑しているであろう昔の人から嗤(わら)われますよ。
思うに、われわれはローソクのように身を削りながら周りを明るく照らしていく存在であるべきです。周りを照らしつつ自分自身は遂には消えてなくなるのです。
完全燃焼できたら此岸(しがん)での使命は終わったのだから黙って彼岸(ひがん)へ旅立って行けばいい。さように牧師であった父から教えられて来ました。
現在、牧師を退(しりぞ)いている父はこの世での使命が終わったら神の御許(みもと)に召されたい、と常々申しております。
失礼ながら、さような覚悟で生きておられる方は、この日本に一体どのくらいいらっしゃるか。皆、この世の富に目を眩(くら)まされて、この世に未練たらたらではありますまいか。
われわれの内のほとんどが、いずれ虫が食い、錆びが付いて消えていく財産にしがみ付いている、という体(てい)たらくではありますまいか。 つづく