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先般、実家に帰省した折に目に触れた出来事をとおして「働く」ということについて読者諸賢と共に考えてみたい。
3月下旬バイクで名古屋市から三重県の鳥羽市まで行きフェリー乗り場からバイクともども伊勢湾フェリーに乗った。伊良湖岬の港で降りて渥美半島をバイクで走って里帰りした。
その日の夜、夕飯に母が用意してくれた、しゃぶしゃぶを食べたあと父と市営の銭湯に行った。この市営の銭湯は安くて水風呂もあるから、わたしは気に入っている。
銭湯から出て実家までの帰る途中でマクドナルドへ寄った。何となれば父がコーヒーを飲みたい、とわたしに告げたからである。父はマクドナルドのコーヒーがお気に入りなのだ。
コーヒーの「大」を買うべくマクドナルドの駐車場に自動車を停めて、わたしは店舗に入りコーヒーの「大」をください、と注文した。
その時に対応してくれた店員がおや、と思うほどの年輩の方だった。コーヒーを注文してカウンター席でしばらく待っていた。
その店員は60歳はとうに過ぎていたとおぼしき男性で店のなかで忙しく働いている若い店員に混じって窓口で客の応対をしていたのである。
店内にいるのは若い店員と若い客がほとんどで店内の平均年齢を彼とわたしとで引き上げていた。くだんの店員は店内で働いている若いスタッフとは対照的で明らかに浮いていた。
わたしは珍しくコーヒーの「大」を注文したのだが引換券を見ると「プレミアムコーヒーM」と印字してあったので「ミディアム」ではなくて「大(ラージ)」を注文したのだが、と言った。
すると、くだんの年輩の店員は口ごもり、まごついた。結局、「ラージ」というサイズはなくて「ミディアム」が一番、容量があるサイズだということが他の店員の説明で判った。
それならば、と「プレミアムコーヒーM」でよい旨を伝えた。年輩の店員は仕事を始めてまだ日が浅かったのかも知れない。
店のスタッフは口にこそ出さなかったものの皆が皆、この年輩のスタッフの要領の悪さにイライラしていたように見受けられた。
そういう険悪な雰囲気は店内が狭いのも手伝って客のわたしにもしっかり伝わっていた。店内のスタッフは舌打ちこそしなかったものの苦虫を嚙み潰したような表情であった。
皆この高齢の同僚の仕事ぶりに我慢していた。彼は周りのスタッフから白い眼で見られていたのだ。マクドナルドなのにスタッフの顔が皆、こわばっていて笑顔が消えていた。
わたしは注文したコーヒーを受け取り、父が待つ自動車へ向かった。父は満足そうに受け取って「ありがとう」と抑揚(よくよう)のない声で言った。
父は喉の癌で声帯を切除しているので喉に道具を当てて声を出すのだ。それゆえに抑揚のない声になるのである。マクドナルドには夜、銭湯から実家へ帰る途中に立ち寄った。
田舎は都会とは違って娯楽が、たくさんあるわけではないので帰省した折に父と安い市営の銭湯にいつも行くのが通例となっている。
当該店舗には父と銭湯へ行った帰りにいつも立ち寄るのだが、くだんのスタッフは初めて見る顔だった。(つづく)※この記事2022年4月1日に書きました。

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