暗く長いトンネル(2)
文豪夏目漱石はイギリスに留学している時に、この暗闇に錐(きり)で穴をあけて一条の光が差し込んでくれればいいのに、とその著書のなかで告白しています。
天才夏目漱石にしてそういう弱音を吐いているのです。どんなに頭がいい人でも実生活は苦しいのです。
どんなに頭が立派な人でも人生を生きることの方が難しいのです。そのことを早く悟らないと人生が後手後手にまわり、いわゆる失敗した人生を悔やまなければならなくなります。
わたしも現在、苦しい人生を辿っています。しかし、学生の頃に親に勉強しろと言われたことはありません。そんなことは言わせませんでした。
生徒諸君には良い意味での矜持(きょうじ)を持っていただきたい。矜持とプライドは似ていますが同じではありません。矜持とは人間としての尊厳と申せましょう。
くだらないプライドなど捨てて一向に構わない。けれども人間としての誇りと優しさは持ってほしいです。以上のような知識は読書により獲得できます。
受験とは関係ありませんが本を読む習慣も今のうちから養うべきです。生徒諸君には是非どんどん良い本を読んでほしいです。
わたしは塾講師時代に暴君のようなとんでもない威圧感を持ったしごく辛口の常務から水上は教養がある、と認めさせました。
この経験により、わたしは、ますます本を読むことに力を入れています。たしかに教養や教育というものは目に見えません。
けれども目に見えない財産こそ本当に価値があり重要である、と『星の王子様』を書いたフランスの作家も申しております。
わたしの塾の生徒諸君には折に触れて人生を生きていくうえでの知恵や知識を教えます。いわゆる教養主義の復権です。
わたしは現代に蔓延(まんえん)している堕落した拝金主義に我慢がならない。生徒諸君はお金に必要以上に価値をおくことはやめて高い理想を持ってほしい。
暗く長いトンネルを抜けた暁には当塾の生徒諸君には時代精神に追随(ついずい)することなく、あらゆる方面で活躍していただきたい、と思っております。