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少し前の本になるがタイトルの本は良く言えば、キャッチー、悪く言えば、センセーショナルな題名で読者諸賢はいかにも流行りの本にありがちな売らんかなの商業臭を覚えるのではないか。
もしかしたら軽薄な有象無象のタレント本と一緒くたに考えてしまうかも知れないが案に反して内容は極めてまともで感動的ですらある。
著者である椿姫彩菜がタレントとして活躍するに至る経緯を勇気を持って、そうとう赤裸々に書いた秀逸なノンフィクション作品でぐいぐい読ませる。
流行っていたから、話題の本だったから、といった色眼鏡で見るのではなく虚心坦懐(きょしんたんかい)に読んでみれば、わたしのいう言葉の真意を理解してもらえるはずだ。
なるほど椿姫の文章はプロには及ばず物足りない部分はある。だが著者が大学生の当時、上梓した書であることを考えれば、そこは斟酌(しんしゃく)しなければ酷だろう。
読んでみると少々ぎこちない文章ではあるが嘘は書かれていないように思える。だからこそ却って事実の持つ迫真性で読み手を圧倒するのだ。
この本のテーマは一貫していて、それは「性同一性障害」だ。男性の体で生まれてきたが心は女性なのだ、とは著者椿姫の弁である。
以上のギャップにより生じる葛藤がさまざまな事件を惹起(じゃっき)する。その事件が微に入り細を穿(うが)ち克明に記されているのだ。
著者の椿姫は述べる。一部の人々にとっては「フツー」は所与のものではない、そして「フツー」でない一部の人々には厳しい偏見による容赦のない差別がある、と。
さらに、この書を読むと、実はその差別は一番味方になってほしい身内からすらも起こり得ることを知るのである。
『わたし、男子校出身です。』は彼女が「フツー」の女性としてスタートラインに辿り着くまでの葛藤、悩み、苦しみが克明に綴られた作品だ。
わたしは十年以上前に24時間営業の書店で、この本と出合った。最初は興味本位でページを繰っていたのだが気がつけば夜は白々と明けて立ち読みでほとんどを読了していた。
同書は出色のノンフィクション作品と言い得る。読了後は「事実は小説よりも奇なり」という言葉の真意が身に沁みて理解できることを請け合おう。
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