書評『頭がよくなる思考術』
わたしは高校生の頃、三木清の『人生論ノート』に出合って、ぼろぼろになるまで繰り返し読み、哲学の奥深さに魅了され深い感動を覚えました。
今回ご紹介する白取春彦の『頭がよくなる思考術』も三木のくだんの書と比べて遜色のない読み応えである、とわたしは思っています。
しかし、三木の『人生論ノート』は彼の著書の中では余技という位置づけにすぎず彼の全集は奥深く晦渋(かいじゅう)ですから単純に比較することはできません。
ともあれ、白取のくだんの書はとても理解しやすいので哲学に親しんでいない多くの読者にとって恰好の哲学「入門書」になるのは間違いありません。
そして、それゆえに読んでいて愉快になること請け合いです。思うに読書が愉しくなる本にはなかなか出合えないものです。
いわゆる「リリーディング」や「スロー・リーディング」も大事ですが、ここでもうひとつ申し添えておきますと読書には多読も絶対必要です。
それは一重に良書と出合う蓋然性が高まるからです。世界のあらゆる良書に通暁していて現代の識者はむろん、いにしえの賢者の叡智に感動を覚える経験を重ねることで教養人たりえるのです。
あえて比喩的に言えば食べた物が皆、栄養になるとは限らないのであります。それゆえに、それなりの読書量は確保したいのです。
白取の当該書籍はトイレや風呂場あるいは冷蔵庫の上、洗濯機の上などに置いてあればパッと手に取れる気軽さがありますし読むと知的好奇心をいたく刺激されます。
思うに哲学は宗教はむろん文学とも通底しています。これら三つのジャンルの根はひとつなのです。こういうことにも気づかせてくれます。
これは著者がドイツのベルリン自由大学で哲学、宗教、文学を学んだことと無関係ではないでしょう。
したがって、文学は好きだが哲学はどうも苦手だという主張は成り立たちません。そして哲学は好きだが宗教は厭である、というのもロジックとしては破綻しているということができます。
彼の本は難しいであろうとされる「哲学」を俗耳(ぞくじ)に入りやすいように配慮して書かれています。読者諸賢にもご一読をお勧めします。