人生先のことは見えない。それゆえ物事は長いスパンで考えなければならない。
サヘル・ローズさんはイラン出身の女優で日本の中学校で非道いイジメに遭って死ぬことまで考えたという。わたしは、それを聞いて小学生の頃のひとりの同級生を思った。
わたしの卒業した小学校は中学校と隣接していた。それゆえ小学校時代の同級生と中学校時代の同級生が皆、一緒という環境で勉強した。
そのなかにイソベさんという女の子がいた。彼女とは小学生時代に同じクラスになったこともあるので覚えているのだ。
小学生のときの彼女の印象は目立たない女の子という印象だった。そして瘦せていて地味で、さような理由にもならない理由で男女を問わず疎んじられて嫌われていた。
イソベさんとは中学生になってからも同じ校舎で過ごしていたはずだが接点はなく彼女が卒業して、どういう高校へ行って、どういうふうに暮らしているか全く知らなかった。
ところが40歳のときだったか地元の同窓会に行って驚愕(きょうがく)した。あのイソベさんは、目を瞠(みは)るような美しい女性になっていた。
さらに驚いたことは男性よりも女性の方が彼女にとても気を遣っていて小学生のときと立場が完全に逆転していたことだ。
わたしは、その構図を見て胸中で快哉(かいさい)を叫んだ。そして、あれだけの美貌の彼女は旦那さんからさぞかし大事にされているだろうな、と思った。
わたしは、イソベさんと二言三言(ふたことみこと)交わしたが彼女は微笑みながら饒舌(じょうぜつ)に話すこともなく優しく対応してくれた。
本記事の冒頭で記した女優のサヘル・ローズさんもすこぶる美しい女性である。その彼女をいじめていた当時の同級生はサヘル・ローズさんの現在の活躍を見てどう思っているだろうか。
わたしは女優のサヘル・ローズさんの活躍を同窓のイソベさんと重ね合わせて見てしまう。人生先のことは見えない。それゆえ物事は長いスパンで考えなければならない。
われわれは先が見えないのでイソベさんのように将来、美しい女性になって周りを黙らせるくらいの逆転が起きることが想像できない。
事情は勉強も同じである。小学校低学年で成績が悪くても高学年で逆転することもあるのだ。決して望みを捨ててはいけない。小中学生は可能性の塊(かたまり)だ。
いや学生に限らず、わたしもあなたも生きている限り逆転満塁ホームランを打つことはできるのだ。わたしはイソベさんの一件で、そう考えられるようになった。