お気軽にお問い合わせください
TEL 052-918-2779
営業時間:14:50-22:10
小林秀雄はわたしの好きな作家であり、思想家でもあります。若い頃から今に至るまで色々なことをわたしに教えてくれました。住まいには全集も揃えてあります。
小林秀雄の書く文章は格調が高いのですが晦渋で分かりにくく大学入試によく出題されていました。しかし同じく作家の丸谷才一は小林の文章を出題するな、と大学側に警鐘を鳴らしていました。
その理由は大雑把に記すと小林の文章は言わんとすることが判然とせず答えがひとつに決まる国語の入試問題にはそぐわないから、というものです。さようなことを丸谷才一はその著書で記しています。
しかし人生には簡単に書けない問題というものが実在します。例えば精神と肉体の問題がそうです。現代の科学は心身並行論という仮説を立てて、やがて人間の心すら計測できる、と自惚(うぬぼ)れています。
心身並行論というのは精神と脳髄(のうずい)はパラレルである、とする仮説です。しかし、この仮説はすでに破綻しています。心身並行論は科学的に述べても間違っていることが証明されているからです。
フランスの哲学者たるベルクソンが証明したのです。彼は机上の空論や勝手な感想を述べているのではありません。彼の証明は動きません。けれども科学教の信徒は科学的迷夢から未だに覚醒していません。
科学の心身並行論には、これ以上深く立ち入りませんが世には簡単でなく、かつ重要な問題はいくらでもあります。さような問題については問題が問題なだけに簡単には書くことができないのです。
わたしは一昨年の盛夏に東京都の町田市にあるキリスト教会の礼拝に友人と出席したのですが牧師の語るメッセージの内容に非常な違和感を抱いたことを鮮明に覚えています。
その牧師は人生は簡単だ、簡単だ、と繰り返し述べていたのです。聞いていて、わたしはこれは非道い間違いだと思いました。自分の人生を虚心坦懐に振り返れば判るはずなのに。
人生が簡単ではないことは自分の経験から判りそうなものです。少なくともわたしのこれまでの人生は簡単ではなかった、と言えます。小林秀雄も人生は難しい、と正直に述べています。
小林秀雄のように文学史に名を残すような天才でも人生は難しい、と述べています。これはこれまでのわたしの経験と一致します。読者諸賢も自分に正直な人であれば頷ける事実ではないでしょうか。
人生には上手く行かないことが多々あります。しかし、それは当たり前なのです。ゆえに勉強での悩みは人生の大問題と比べれば秤(はかり)の上のちりに過ぎない、と言えなくもないのであります。
コメント