書評 『バカなおとなにならない脳』(後編)

聖書の有名な聖句の解釈を皆、誤っている。聖書の解釈も勉強せねばならない。

いじめの話が出たので話は逸れるが、わたしのいじめ問題に対するスタンスを述べておくのも無意味ではあるまい。思うにこの点で聖書に深く影響を受けているので以下で説明しよう。

聖書には「目には目を、歯には歯を」という言葉がある。それでは、この言葉のとおり敵に復讐するべきであろうか。否(いな)、である。

これはよく知られている言葉であるが、しばしば誤って解釈されている。一言で正しく要約すれば同害報復である。

すなわち、目を損なわれたら目以上の報復はするな、歯を損なわれたら歯以上の報復はするな、という復讐を思いとどまらせる考え方なのである。

したがって、復讐の勧めではなく、むしろその逆なのである。というのも人間は他から害を被るとエスカレートして被害以上の復讐をする衝動を持つからである。

「復讐するは我にあり」という言葉も聖書に出てくる有名な言葉で、よく引用されているが意味が誤解されている点では前掲の言葉と選ぶところはない。

これも自分で復讐するのではなく復讐は神に任せよ、という趣旨の言葉で復讐を肯定しているのではなく、むしろ抑止するために述べられているのである。

上記の文の「我」とは「神」を指し示しているのだ。原則として、わたしはいじめ問題に対しては神の裁きに任せ、インド独立運動の指導者ガンジーに倣い非暴力・不服従の態度で毅然と対処する。

けれども平和的態度の限界というのもあると考える。目の前で正義が蹂躙(じゅうりん)されるようなことがあれば、わたしは黙って傍観することはできない。

激しく怒り紳士的に対処するくらいの気概はある、と申し述べておこう。ちなみに、よく誤解されているようだが非暴力・不服従も無抵抗主義とは一線を画す。

閑話休題。脳についての理解を深めたいなら今をときめく脳科学者の茂木健一郎よりも解剖学者の養老孟司の書をお薦めする。

茂木の本を数冊、買って読んだが、ちっとも面白くなかったし何も残らなかった。思うに言葉は悪いが出来の悪いハウツー本以上の書ではない。

もっとも、彼がハウツー本として著した本を読んだだけなので、それも至極当然の感想なのかも知れないが。嘘だと思う読者は閑があれば両者の著書を比較しながら読むのも一興かもしれない。

それはともかく件の書を身銭を切って購入し、ぜひ一読されることをお勧めする。著者の本は他にも数冊、読んだが本記事で紹介した『バカなおとなにならない脳』が一番よい。

まずは本書を読み、興味が湧いた読者は他の養老本に手を拡げればいい。そういう意味では本書は養老孟司の入門書とも位置づけることができるだろう。(了)

目次

難しい言葉まとめ一覧(AI作成)

難しい言葉・表現意味・解説
目には目を、歯には歯を聖書に出てくる有名な言葉。本来は「同害報復」=被害と同じ程度の報復にとどめよ、という抑止の考え方。復讐を勧める言葉ではない。
同害報復加えられた害と同じ程度の報復に限定すること。過剰な復讐を防ぐための原則。
復讐するは我にあり聖書の言葉で「復讐は神に任せよ」という意味。人間が自ら復讐することを戒める表現。
非暴力・不服従ガンジーが唱えた思想。暴力を使わず、権力や不正に対して従わないことで抵抗する態度。無抵抗主義とは異なる。
無抵抗主義一切抵抗しない立場。非暴力・不服従とは違い、積極的に不正に抗う姿勢を持たない。
蹂躙(じゅうりん)踏みにじること。権利や正義を力で押しつぶすこと。
紳士的に対処怒りを持ちながらも礼儀を失わず、冷静かつ毅然と対応すること。
閑話休題(かんわきゅうだい)本筋から外れた話を終えて、元の話題に戻るときに使う言葉。「さて、話を戻そう」という意味。
解剖学者人体の構造を研究する学者。ここでは養老孟司を指す。
ハウツー本「やり方」を解説する実用書。著者の思想や深い考察よりも、方法論に重点を置いた本。
入門書初めて学ぶ人向けの基本的な内容をまとめた書籍。ここでは『バカなおとなにならない脳』を養老孟司の入門書と位置づけている。
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