片岡義男
バイカーはいつ如何なる時もオートバイに跨(またが)って風を浴びながら四季折々の風景を愉しみたいと思っているものです。わたしもその例外ではありません。
部屋に居ながらにしてツーリングに擬(ぎ)した経験はできるようです。オートバイ小説を読むことがそれです。
ただし、当然のことながら、その前提条件として読み物が優れたオートバイ小説であることが必須です。
片岡義男の小説を読みますと彼はオートバイを知悉(ちしつ)していることが判ります。バイク・ツーリングの肝腎要(かんじんかなめ)を見落としてはいません。
彼はバイク・ツーリングの魅力を自在に表現できる優れた語り手ということができると思います。それは彼の作品をよく読めば容易に理解することができるはずです。
片岡義男のオートバイ小説に出合えたのは経済的な事情でバイク・ツーリングができなかった時です。
そう、オートバイ小説を読むのはわたしにとって明らかに心理学でいう代償行為なのです。ツーリングに行きたくても行けないとき片岡の小説を読むのです。
『幸せは白いTシャツ』と『長距離ライダーの憂鬱』はいずれもよい小説でした。特に前者は写真が随所に挿入されていて興味深く読むことができました。
写真のモデルは若い頃の三好礼子です(掲載画像参照)。彫りの深い精悍(せいかん)な顔つきをした好もしい印象を持った女性です。
彼女がオートバイに乗って疾駆(しっく)している姿が様々に写真に収められているのです。読み手としては相当に旅情に浸ることができます。
思うに、イラストでもなく単なる挿絵でもなく散発的に丸々一頁ないしは見開き二頁という少なくない紙幅を写真に割く、というのは斬新なアイデアです。
しかし、当然のことながら巧みな文章で書かれた面白い内容でなければ、いくら素晴らしい写真がふんだんに載せられていたとしても読み手の心には訴求できないでしょう。
読者各位も巧みな文章で書かれた面白い彼の作品を読んでみてはいかがでしょうか。最初は“オートバイの詩”シリーズを一読されることをお勧めいたします。
具体的に挙げるなら、わたしが読んだように同シリーズの『幸せは白いTシャツ』や『長距離ライダーの憂鬱』から読み始めることをお勧めします。
いずれの作品も仕事や経済的事情でバイク・ツーリングに出かけたくても出かけられない読者諸賢の胸には訴求すること大である、と思います。