わたしのレコンキスタ

過日パソコンで作業をしていたら一通のメールが届いているのを認めた。下記のとおりである。

先日はお忙しい中、体験授業ありがとうございました。娘はとても緊張していて、なかなかうまく発言できなかったようでしたが、先生がとても優しくご指導してくださったおかげで、今は不安はなくなったようです。

という文面で前向きに検討するという旨が記されていた。

ゴールデンウイークに体験授業を受けてくれた二組の親子のうちの一組だった。しかし、

先生の心強いお言葉に崖っぷちにいる娘も私もとても励まされております。

というメールを最後に返信が途絶えている。やはり男性教師主宰の塾に娘を預けるのは躊躇われるのだろうか。

けれども、先例があるのだ。実際に問題なく女の子が通って第一志望校へ合格しているのだ。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のことわざのとおり勇気を出して一歩踏み出してほしい、とわたしは思う。

たしかに女生徒を性的な目で見て盗撮するような教師もいる。それゆえ我が塾へ女子を一人で通わせるのは抵抗があるのは無理のないことかも知れない。

娘さんがとても緊張したのも理解する。けれども、わたしも牧師の息子である。わたしの一挙手一投足が語らざる伝道になる、と心得ている。

われわれキリスト者はヒューマニズムを超えた倫理と道徳を実践するべきと教えられている。われわれキリスト者の生きる姿勢は人間中心主義ではなくて神中心主義なのだ。

わたしが実際に立派な人物であるか否かはひとまず措くとしても良い人間であろうと努力はしているつもりだ。したがって女子に手を出す、ということは断じてない。

むろん口先だけの人間もいることだろう。しかし、わたしが一朝、事を起せば塾は必ず廃業せねばならない。わたしは孤独な塾稼業が好きだ。そうでなければ五十歳代で起業などしていない。色欲ではない。お金でもない。

わたしは若い人と接しながら穏やかに暮らしていきたいだけなのだ。むろん、それ以上の野心もないといえば噓になるが不祥事を起して人生を棒に振ることはない。そして、それが想像できない人間でもないつもりだ。

もうすぐにでもわたしは長い旅にでなくてはならない。かの地では教会に集っていた先輩のキリスト者が快く笑顔で歓迎してくれるだろう。今は天の御国で安らいでいる彼らの顔に泥を塗ることは決してない。

今朝、夢を見た。若い頃、わたしが最初に勤めた塾でもがいている姿を認めた。わたしはその個人塾の塾長から期待されていた。わたしは夢の中でも失敗していた。夢から醒めて暗い気持ちで床を畳んだ。

当時の塾長は滝中、滝高校を経て渡米してアメリカの大学を卒業していた。卒業してから日本に戻って画商をしながら親の稼業を継いでいたのだ。多くの生徒諸君から慕われていた。英語の発音がとても流暢だった。

一方、わたしは集団授業で四苦八苦していた。塾長のように中学生諸君を上手く統率できなかった。男子生徒から野次られた。女子生徒は眉をひそめていた。

脂汗を流しながら授業の時間が永遠に続くかと思われた。生徒でなく教師が授業終了時間を心待ちにしている、という体たらくであった。

わたしは期待してくれた塾長からの信頼を少しずつ失っていった。やがて、わたしは生徒諸君はもちろん、塾長からも「水上先生」と呼ばれなくなった。塾を辞めざるを得なかった。教育業界の残酷な事実を文字どおり身を以て経験させられた。

わたしにはそういう苦い経験がある。我が塾がマンツーマン指導である理由はさようなわたしの過去の傷に由来もしているのだ。

以上のような次第でわたしは今、往時の苦々しい経験に逆襲しているのだ。わたしは、かつての自分ができなかったことを今、取り戻しているのだ。それゆえ我が塾へ通っている生徒諸君が男女を問わず可愛いのだ。

成績が低迷しているなら男女の別なく安心して通える塾でありたい。わたしは塾講師として一度死んだ人間である。けれども、再起を図って、ここ平針の地で起業した。

開業してからの歩みは、わたしのレコンキスタ(失地回復)に他ならない。わたしが逆襲と記すゆえんだ。敗者復活戦なのだ。

時限爆弾が爆発する時刻はすでに迫っている。お願いだからレコンキスタが成功しますように。死という爆発まであと僅かだ。それまでの間、わたしは不祥事を起こさない。のみならず生徒諸君の国語の力を伸ばすため粉骨砕身、努力する。

若い頃わたしは敗北した。教育者として一度死んでいる。信頼を失った過去がある。それでも再び立ち上がった。そして過去の亡霊に逆襲しているのだ。生徒諸君を性的搾取の対象として見る道理がない。それは信じてもらいたい。

ゴールデンウィークとば別に先週、二組の親子が体験授業を受けに来塾された。そのうちの一組は家族皆で来塾された。そして入塾を決めてくれた。体験授業当日に連絡があった。

わたしは体験授業の出来が悪く感じていたので意外だった。それだけに歌でも大声で歌いたい気分だった。体験授業をして入塾をしてくれる生徒がいる限りわたしのレコンキスタはつづく。

そして最後になるが、かつてのわたしのようにわたしが生徒を見限ることはない。わたしが見限られることはあるかも知れない。むろん、そうならないように懸命に努力するが、わたしは生徒を見限らない。真面目に努力する者を最後まで応援することはお約束する。

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