もう来なくなったあなたの誠意

毎年、期日ぴったりに届いていた。わたしはそれを受け取って満たされ、安心したものだ。

あるときを境にわたしの許には届かなくなった。もう数年は経った。

二十年来の友だった。豊橋から東京の豊島区の下宿まで国道一号線をバイクで走って訪ねた。粗末な料理を分け合って食べた。夜が更けても本気で天下国家を論じた。春夏秋冬いつでもわたしにはあなたがいた。

社会人になってからわたしは幾度となく食糧と本をダンボール箱に詰めて宅急便で送付した。あなたは照れ隠しに笑ってこの恩は忘れない、と言った。いいんだよ。困ったときはお互い様だ。

あなたはよく言っていた。「好きで貧乏しているんだ」と。

今なら分かるような気がする。風呂なし、共同トイレの木造モルタルのアパートが取り壊される度に引っ越しを余儀なくされていた。

引っ越しのとき友人の一人は次の日があるのに夜遅くまでワンボックスカーで元の住まいと新居まで何度も往復したという。わたしだって駆けつけたかった…。

雨の日にあなたから借りた傘をコンビニに忘れていったことがあった。部屋で夜を徹して語り合ったあと共同トイレのドアを開けたら別の住人が入っていた。急いで閉めた。釘を刺されていたのに。

あなたが怒ったのは後にも先にもあの一度だけだった。しかもわたしを責める言葉を一言も発しなかった。

われわれは互いの住まいを行き来していたときがあった。わたしのマンションに泊まった際、あなたは寝る前にノートパソコンでポイントを貯めていた。生活費の足しにしていた。朝あなたを見送ってから仕事へ向かった。

あなたは長旅の途中でマンションに泊まった。冷蔵庫の扉を開いた。あなたは絶句した。

「水上君…」

単身、名古屋へ出てきたばかりのときだった。

あれから十数年、冷蔵庫には食べ物が溢れ返っている。もう心配することはない。だが――

あなたはこの空の許、何処かの街で生きているはずだ。けれども、それを確かめる術をわたしは持たない。

やがてあなたは恋を知った。りんごちゃんは元気か。あなたが告白した人。彼女の大学のレポートを手伝った。無償で。

来年は送ろうと思う。たった一切れ。されど一切れ。思いは届かないかも知れない。住所は知っている。あなたが肉筆で余白を埋めたように。思い切って届けようと思う。あなたは拒むだろうか。分からない。

毎年、元旦に届いていたあなたの誠意。わたしは頭を抱えて嘆息する。
もう来なくなったあの肉筆の一枚の葉書。

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