人たらしの処世

口の悪い連中はウカワを「人たらし」と呼んでいた。あながち見当外れの評価ではなかったはずだ。振り返ると、彼はぶっきら棒だが周りに気を遣っていた。

職場で同僚に豚の角煮を振る舞っていたこともあった。タッパーに詰めて、わたしも家に持ち帰ったことがある。ある時などは「液晶テレビをやる」と言ってくれたが、重くて大きいので仕事のついでに受け取ることはできなかった。

「俺の家まで取りに来い」という割に住所は教えてくれなかった。今に至るまでテレビは所有していない。こういうことは一度や二度ではなかった。

しかも、人づき合いが下手な同僚を前にして、お前は「コミュ障」と悪口を言えるくらいのコミュニケーション能力が確かにあった。相手が年上でも意に介さなかった。

さらに、ウカワは作業員を前に、スーツ姿で会社に現れる年若い社長もたらしこんでいた。

作業員は言っていた。

「あの社長、作業服で来いや」

「スーツで何様のつもりだ」

「社長様か」

職場の男たちは現場に出ない社長に辛辣だった。男たちの思いとは裏腹に社長はウカワをいたく気に入っていた。社長は若かった。大株主のぼんぼんで、やさ男だった。だが、妙に頑固だったことを覚えている。

それを知ってか知らずかウカワは危ない橋を渡っていた。わたしはそれを冷や冷や見ていた。誤解されてもおかしくなかった。

だが現場での智恵があり、入れ替わりの多い職場で長年、生き抜いてきた彼には、わたしなどが思いも及ばぬよくよくの算段があったはずだ。ウカワはよく新人の無思慮を嘲っていたから考えなしに社長を擁護することはなかったはずだ。

彼は現場ヒエラルキーの頂点に近かった。取り巻きはむろん、ウカワにおもねる作業員は少なからずいた。

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