卒塾生の課外授業

授業準備をした。日程調整もした。白髪も染めた。あの子が来る。そして教室で受験生と質疑応答を行ってくれる。以前からお願いしていたのだ。

彼女ならきっと受験生を励ましてくれるだろう。光栄です、という。謝礼は要りません、ともいう。だが、その点だけは彼女の言い分には耳を貸さない。

明日の授業は午後四時半から始まる。午後六時で終えて卒塾生の話をしばし聞いて、その後、質疑応答に移ることができればいいな、と考えている。

外は明るく晴れている。本来ならハーレーをレンタルして三重県の阿下喜温泉にでもツーリングに行きたかった。けれども、お金と時間と手続きの煩雑さを思うと面倒臭い。仕事を少しでも進めておきたい。

塾生と卒塾生は二人を引き合わせたわたしに感謝するのではないか、と自惚れている。何よりもかつての学び舎のために役に立ちたい、という卒塾生の心根が嬉しい。

明日は教室に三人だ。我が塾はマンツーマン指導なので普段は教室には二人きりだ。ところが体験授業をするときは三人になる。保護者にも必ず参観してもらっているからだ。

けれども、明日は生徒と教師に加えて卒塾生だ。初めての試みなので、どういう化学反応が起きるか分からない。しかし、わたしは心配はしていない。卒塾生を信じているからだ。

昨日の朝は雨が地面を叩きつけるように降っていた。雨が降る少し前、四階のベランダから地上の自転車やバイクに乗っている人の姿を見かけた。

本稿を書いていると教室に日が差してきた。天気予報のとおりだ。今日は穏やかな秋晴れなのだ。秋晴れなのに何をやっているのだ、と心の声が聞こえる。

昨晩はスマホホルダーを購入して四苦八苦しながら付属の工具でバイクのハンドルに取りつけた。日没後の作業だったので難航した。ナビアプリもスマホに入れた。準備は整っている。行こうと思えば今からどこへでも行けるのだ。

あの子には謝礼のみならず『塾長エッセイ第三巻』も渡すつもりだ。平明な文章で書かれてはいるが中学一年生には難しい内容かも知れない。

だから今でなくとも、将来読んでくれればいい。むろん、それは塾の直接的な利益にはならない。そうであってなお我が塾はお金や偏差値という尺度だけで生徒諸君を測らない。

こうして文章を書いていることも儲けるための集客法としては効率が悪いのかも知れぬ。それでも構わない。明日の晩には卒塾生の成長した姿が見られるのだ。

夏休みには午前も午後も授業をした。その合間にブログも三日にあげず執筆した。お盆も休まなかった。秋風を全身に浴びに行く資格はあるのではないか。

受験生にとって、塾で一年前に勉強したお姉さんの助言なら受け入れやすいのではあるまいか。わたしは今いる塾生の為になることなら骨惜しみする気はさらさらない。

わたしも年を取ったものだ。若い頃なら秋の好日にツーリングに行くことに何の躊躇いも覚えなかっただろう。事実、秋に豊橋から東京の文京区までバイクに乗って行ったことがある。

今回も以前のわたしならハーレーで阿下喜温泉に行ったことだろう。しかしながら、今回は机に向かって、こうして文章を書いている。わたしは生真面目で臆病なのかも知れない。

浴室から出て真水のシャワーで濡れた身体をバスタオルで拭った。教室の窓からは燦燦と陽光が降り注いでいる。プロペラが剥き出しになった扇風機の風を全身で浴びる。もうガスの開栓を依頼せねば。

今日一日と明日のことを考えているのだが、どうにも上手く考えがまとまらぬ。

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